第796回/だからみんな共に生きろ - 死に至る病(西邑倖) - ミステリー・サスペンス
FC2ブログ

NaGISA net - フリーノベルゲームレビュー

ARTICLE PAGE

作品リスト − 新着順名前順プレイ時間順ジャンル別掌編
久住女中本舗作品リスト - 新着順/名前順
Peing質問箱(リクエスト、ご質問お気軽に)

第796回/だからみんな共に生きろ - 死に至る病(西邑倖)

ミステリー・サスペンス
  • comment0
  • trackback-

死に至る病

死に至る病準推薦
■制作者/西邑倖(ダウンロード
■ジャンル/荒廃世界の生と死サスペンスノベル
■プレイ時間/3時間

荒廃した食糧難の世界で、仲間たちと共にスーパーを襲撃して食いつないでいる戸倉直希。ある時、亡くなった隣人の配給の食事をくすねていることがばれてしまい、収監されることになってしまう。刑務所の中は、想像を絶する地獄だった。そこから助け出してくれたのが、医師の神月に助けられる。その病院には大きな秘密が……。生と死を問うサスペンス。

ここが○

  • サスペンスとしての怖さは超一級。
  • 謎の提示と解明のバランスがよく、読み手にストレスを与えない。
  • 救いのある終わり方が用意されており、後味も悪くない。

ここが×

  • かなりグロテスクな描写のある展開もするので、苦手な人はきついかも。
  • 画面をまたいで文章が続く箇所が結構ある。
  • 攻略が結構大変。

■だからみんな共に生きろ

この作品の存在はかなり前から知っていました。有名作ですからね。しかし、あらすじを読んだだけで私が好みそうな話ではないと思い、なかなか手を出せずにいました。が、世間が新型コロナウィルスで大変なこういう時期だからこそ(?)、この物語は読んでおかないとなと思い、この度ようやくプレイしました。タイトルはキルケゴールの哲学書からでしょうね。

この作品は、分類すればサスペンスということになるのでしょう。サスペンスとは、物語中の危機で読者に不安定な心情や緊張感を抱かせる物語という定義のようですが、その意味ではこの作品は、サスペンスの中のサスペンスです。とにかく、緊張感や怖さ(色々な意味で)が尋常ではありません。グロテスクな描写もあったりしますので、そういうのが苦手な方は読むのがきついかも知れませんので、ご注意ください。

死に至る病主人公の名前は戸倉直希。年齢は高校生くらいのようです(冒頭で「今はもう通っていない」とありますから)。世界は食糧難で酷いインフレになり、毎日の食事を得るのにも苦労する日々。そして直希は同じ高校の仲間たち、勇人、卓也、武藤(何故彼だけ苗字?)、そして紅一点の祥子と、食糧を得るためにスーパーを襲撃します。首尾よく食糧を得て隠れ家に帰りますが、翌日街で冒頭が起こり、それに巻き込まれてみんなは怪我を負ってしまいました。

冒頭はこんな感じで、派手な展開ではあるものの、比較的緩やかに始まります。しかし、直希が病院を出た後、亡くなった隣人の食糧の配給をくすねていたことがばれ、刑務所に入れられてしまう辺りから、一気に物語の緊張感が高まります。この刑務所のシーンは序盤のハイライトです。とにかく、色々な意味で怖さが尋常ではありません。苦手な人は、ここで挫折してしまうかも知れないと思えたほどです。

さてこの物語には、数多くの謎が出てきます。謎は物語にはある意味不可欠ですが、あまりにも謎を多く出しすぎても読者がついて来れませんし、何より読者が謎に気付くタイミングを上手く計るのは、かなりのセンスを要求されます。謎に早く気付かれすぎても興醒めですし、逆に物語中で謎を明かした時「そんなの分かる訳ないだろ」となってしまっても、効果を減じてしまいます。そしてこの物語は、その辺りが抜群に上手いのです。

謎を読者に提示し、読者が謎の真相に気付くように仕向けるタイミングも上手いのですが、加えて謎の絡ませ方が非常に巧みです。1つの謎が解けたと思ったら、別の、より物語の本質に迫る謎が新たに出てくる。このさじ加減が絶妙で、中盤以降は誰でも物語に夢中になってしまうことでしょう。もちろん謎自体も凝った作りではあるのですが、こういう作品を読むと、謎そのものだけでなく、その展開のしかたこそが物語を読んだ時の「気持ちよさ」に関わるのだなと思わされました。

この作品には一切絵がありませんが、キャラクター付けが非常にしっかりしており、絵がないのにそのハンディを微塵も感じさせません。状況描写も巧みで、場面が目に浮かぶかのような文章力は見事です。ただし、文章がページをまたいで改行する箇所が結構多く、そこは面食らってしまいました。画面が文章で溢れて読みにくいというほどではないのですが、もう少し改行のポイントは考えても良かったような気がします。

エンディングは10種類ありまして、トゥルーエンド、ラブエンドの他にバッドエンドが7つ。全部を見たら誰も死なない、おまけ的なハッピーエンドが見られます(が、ある意味何も解決していないので、これをハッピーと呼べるかは謎ですが)。個人的には、少し未消化なところはあるものの、ラブエンドがバランスと読後感のいい終わり方だったと思います。もちろん、トゥルーエンドも見事です。そこまでの展開があるからこそ、この作品の持つメッセージ性が心にガツンと来るのはトゥルーエンドの方です。

そのように、この作品はかなり強いメッセージ性、テーマを持っていますが、そもそもの物語が非常に強烈であるため、そのメッセージ性が押し付けがましくありません。メッセージ性とエンターテインメント性を高いレベルで両立しており、最後まで感心させられることしきりでした。ただし、攻略が厄介です。ある箇所の選択肢の結果、はるか後になってからバッドエンドになったりするので、ちょっと不親切かも知れません。まあ、エンディングリストでヒントも見られますし、スキップも高速ですので、そこまで苦労はしないかも知れませんが。

ツールは吉里吉里です。古めの作品ですが、ストレスなくプレイできます。好きか嫌いかで言えば、全然好きなタイプの物語ではないのですが、色々な点でレベルが高く、物語を作る人が読んだら、勉強になることも多いでしょう。新型コロナウィルス騒動の真っ最中の今改めてプレイすれば、本来の物語以上に怖さを感じられるかも知れません。未読の方は、この機会に是非どうぞ。
関連記事

Comments 0

Leave a reply