第798回/大好きだったよ、さようなら - 東雲に霞む(霧氷こあ) - シリアス・感動系
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第798回/大好きだったよ、さようなら - 東雲に霞む(霧氷こあ)

シリアス・感動系
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東雲に霞む

東雲に霞む準推薦
■制作者/霧氷こあ(ダウンロード
■ジャンル/自殺志願の少年少女語り合いノベル
■プレイ時間/1時間半

バスに乗り目的地を目指していた高倉小春。目指す場所に着き、出会ったのは目的を同じくする夏美、秋穂、そして冬馬の3人。4人は指定された旅館に到着し、一息つく。4人は同じ自殺サイトで知り合い、今日命を断つためにここに来たのだが、最後に自分たちの死ぬ理由を話そうということに。生と死の問題に、独特の角度から切り込んだシリアスな物語。

ここが○

  • 4人のキャラクターがしっかり立っている。
  • 終始重い物語だが、展開のテンポが良く気その意味では軽快に読める。
  • 重いものの前向きなところも感じさせるラスト。

ここが×

  • 重い上にちょっとショッキングな描写も多く、読み手を選ぶ。
  • 途中で文字表示速度が急に遅くなり、変更できなくなる。
  • ラストに登場した2人が、あまり役立ってないような……。

■大好きだったよ、さようなら

旧作探しもいいですが、それだけだとやはりバランスが良くありませんので、今回はまた新し目の作品を。公開は今年の1月ですからごく最近です。が、公開後わずか2月でも、ひとたび話題に乗り遅れるとそのまま忘れられるのが、悲しいことに今のフリーノベルゲーム界の現実。この作品も、感想が1件しかついていませんでした。そして実は公開直後にダウンロードしていたのですが、最初のあまりに重い展開に、プレイを中断してしまったのです。

しかし今回改めて最後まで読んでみると、これは非常に良くできたお話だと感心しました。確かに非常に重い物語なのですが、トゥルーエンドは前向きに感じられる終わり方でしたし、途中の重さを払拭するというほどではないのですが、非常に強い読後感を残してくれました。作者さんは「盗まれた冬」を書いた方です。あの作品は、短編ながら仕掛けが施された面白い作品でしたが、今作も非常に意欲的な作りの物語です。

東雲に霞むこの作品を一言で語れば「自殺もの」です。この手のテーマの作品は結構ありまして、最近取り上げた作品ですと「死ぬよりも辛いこと」や「せめて、笑ってくれたなら。」、少し前ならば「あいからの鎖」や「私は今日ここで死にます。」があります。そしてこの手の物語の作り方には大きく2種類ありまして、1つは登場キャラの1人が本当に作中または作品のラストで死んでしまうもの。もう1つは、死のうとする登場人物が、ストーリーを通して死ぬことを断念するものです。

登場キャラが本当に死んでしまう作品は、よほど上手く作らないと、物語としてのまとまりを欠いてしまい、後味の悪さだけが残ります。登場キャラが物語を通して生きることに意味を見出す展開の場合は、理由づけをよほど上手くやらないと、嘘っぽくなって白けてしまいかねません。要するにどちらにしても自殺ものは難しいということです。そしてこの物語の場合は、一応は後者です(「一応」というのは、選択肢次第では本当にみんな死んでしまいますので)。

物語の構成自体はシンプルです。自殺サイト管理人からのダイレクトメッセージで、安らかに逝ける「天使の薬」というのをもらって自殺するために集まった4人が、舞台となる旅館で、それぞれの自殺する理由を過去回想の形式で語ります。それが4人分。合間にちょっとしたやり取りもありますが、基本的にはほぼこれだけです。作りは単純なのですが、逆に読みやすく、今物語がどれくらい進んだか分かりやすい構造であるとも言えます。登場人物は4人ですが、4人ともしっかり性格付けがされていて、閉鎖空間の物語ながら、退屈を感じさせません。

死にたい理由を語るのは、夏美、冬馬、秋穂、そして小春の順番。最初の夏美から、あまりにも経験したことがヘビーで、気が重くなってしまうほど。しかも夏美エピソードのラストの展開が、またえぐい(汗)。夏美だけでなく、続いての冬馬も普通ではありません。グロテスクな描写も多く、ここはちょっとついていけない人もいるかも知れません。秋穂の話も、別の意味で普通ではなく、また決着のつき方(あれを「決着がついた」と言っていいのか謎ですが)がとんでもなく、さーっとひいていく人がいてもおかしくありません。

そして4人の最後が小春です。ここまでの3人の経験談が凄いので、免疫がついたのか、ここは案外落ち着いて読めました。そして小春の回想で仕込まれたちょっとした伏線が、後半からラスト、またバッドエンドでも上手く効いています。小春編に限らず、冬馬の隠された秘密も、ラストでしっかり生きていて、構成がかなり巧みです。

ラストの解決法は、それまでの伏線が上手に生かされ、特に冬馬、小春の秘密が綺麗に点で結びつき、見事な幕引きでした。もちろん、ハッピーエンドかと言えばそうとは言いにくいですし、秋穂や冬馬の抱えている問題は解決していないのですが、彼らが共に過ごし、過去の苦しい体験を共有した1日は、これからきっと無駄にならないのではないかという、少しの希望を感じさせてくれる終わり方でした。

ただ、ラストでいきなり出てくる2人に少し戸惑いました。その2人が登場することで、物語の大事な部分の秘密が解決したという点では意味がありますが、あの2人については何ら伏線もありませんでしたし、それにラストで秘密を明かされても、「この人たち、何か活躍したか……?」と思ってしまったんですよね。ラストで語られたテーマ自体は、ストーリーを邪魔することなく融合していたと思いますので、もう少しこの2人の活躍が伏線として感じられるような描写、この2人がいたからこそ物語が解決したと感じられる点があれば良かったのでは、と思いました。それと、文字表示速度が途中で急に遅くなり、それっきり変更できなくなります。これは若干のストレスに。

ツールはティラノスクリプトです。選択肢は複数回出てきますが、攻略は難しくないはずです。エンディングは、トゥルーエンドが1つにバッドエンドが3つ。プレイ時間は1時間半から2時間程度だと思われます。とにかく全編に渡って重く、人を選ぶ描写も多発する上、楽しいというタイプの物語ではありませんので、誰にでもお薦めという訳ではないのですが、物語としてのレベルは高い作品です。きちんと前向きなテーマが込められていますので、興味のある方は是非読んでみてください。
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