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第821回/極夜に暖かな空を見上げよう - Polar night(Lunaria Project)

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Polar night

Polar night■制作者/Lunaria Project(ダウンロード
■ジャンル/雪国で過去の悪夢と闘う日常ノベル
■プレイ時間/2時間

ほぼ1年中雪に覆われる国イースランド。その国の首都レイヴィークで働く警察官、クライド。かつて祖国を戦争のために脱出し、幼馴染のセリアと共にこの国に逃れて来たクライドは、過去の悪夢に悩まされ続けていた。口の悪い部下のエステル、そして幼い行商人アイリスと共に過ごすこの国の日常は心地良いものだったが……。オリジナル背景が美しい雪国の物語。

ここが○

  • 美しく雪国の雰囲気満点のオリジナル背景。
  • 立ち絵、1枚絵も非常に綺麗。
  • 緩い日常と重い過去が適度にマッチしている。

ここが×

  • デリカシーがなく鈍感な主人公クライド。
  • それを一人称で語られるので、時々ついていけなくなる。
  • もう少し恋愛面での描写があっても良かったのでは。

■極夜に暖かな空を見上げよう

Polar night今回の作品は初出2012年。「ウィンドチャイムに連れられて」「星空に馳せた想い」の作者さんの作品です。なんと約600本ぶりのご紹介。実はこの作品は過去にプレイ済みでした。プレイ済みの作品でも、タイミングが合わずにレビューを書かず仕舞いということが結構あるのですが、この作品も多忙な時期に当たったのか、よく出来た作品であるにもかかわらずレビューを書いていませんでした。ようやく今回ご紹介できます。タイトルの「Polar night」は、「極夜」という意味で、北極圏や南極圏で見られる日中でも太陽が上らない現象のことです。

最近では、新作と旧作を半々くらいの割合でご紹介するように心がけています。まだまだ旧作でもいい作品がたくさん眠っていますし、何より皆さんに少しでも旧作にも目をむけていただきたいからです。みんなが新作、話題作しかプレイしなくなると、当然ながら新作、話題作以外は見向きもされなくなります。今は特に掌編の新作が多く、数ヶ月も経つと話題にならなくなることも珍しくありません。

そして以前に比べるとノベルゲームのプレイヤー数が減り、「プレイヤー=作者」である率が上がりました。そんな状況で、みんながみんな新作しかプレイしないと、皆さんが作った作品も、少し時が経つと誰にも顧みられなくなるかも知れません。なので(私が書いても影響力は極小ですが)少しでも過去の名作をご紹介していきたいと思っているのです。とにかく、今作は色々な意味で見落とせない作品です。

まず驚くのは背景。かなり美麗に描き込まれていて、素材かと思いきやなんと全てオリジナル。写真ならともかく、イラスト背景でこれほど高品質なものをオリジナルでというのは、大変な手間です。今作の舞台はイースランドという架空の国(アイスランドがモデルなのでしょう。レイヴィークはレイキャビクのことなのでしょうね)ですが、この背景イラストにより、雪国ながら暖かみのある、非常に魅力のある舞台を遺憾無く表現し切っています。

Polar night主人公の名前はクライド。祖国が戦争で酷い状態になり、両親や妹のフローラもその戦争で失いました。幼馴染のセリアと平和なイースランドに身を寄せ、今は警察官として、口の悪い部下のエステルと2人で働いています。そんな彼は、過去のトラウマから激しい発作を起こすことがあり(PTSD的?)、麻薬めいた怪しい薬を定期的に摂取しているのですが、その薬を売ってくれるのが、幼い行商人アイリス。冒頭部とメインキャラクターはこんな感じです。

このクライド、ハードボイルドを気取っているような男なのですが、何せデリカシーに欠け鈍感。「お前それは言っちゃ駄目だろう」というような言葉を、平気でヒロインに吐きます。そして物語はクライドの一人称で語られるものですから、時折「お前もうちょっと何とかならんのか」と感じる箇所もありました。三人称ならともかく、一人称で描く場合には、主人公のキャラクターメイキングがもう少しマイルドでも良かった気はします。まあクライド自身は、決して性格の悪い男ではなく、ただ愛想が悪いだけなのですが(笑)。そこを除けば、文章は整っていて描写も適度。途中の格闘大会の、スピードと緊迫感を両立した文章を読むと、この作者さんの力量を感じられます。

ルートは3人のヒロインで3本。アイリスルートは、クライドの失った妹、フローラへの想いとの決別のようなものがテーマ。クライドが抱えていた薬物への依存症みたいなものが、結構あっさり解決してしまっていますし、3つのルートの中では少し盛り上がりに欠ける面はあります。エステルルートは、クライドの依存症をエステルの故郷に行って治療しようという流れ。解決法が少々強引ですが、エステルとクライドの過去を上手く絡ませ、クライマックスの盛り上がりも感じられたルートです。何より、エステルの故郷の背景イラストが、異国感満点で非常に印象に残りました。

そしてメインヒロイン、幼馴染のセリアルート。クライドに、幼馴染ものにありがちな自己完結(こいつは俺がいると幸せになれない、的な)があるのが気になりましたし、オチの解決法はやはりかなり力技ですが、3本のルートの中では終わり方も綺麗で、一番まとまりがありました。この作品が恋愛ものかと言われると、あまりそうとは言えない気もしますが(一応「恋愛」に分類しましたけど)、恋愛面でも3つのルートの中では収まりのいい物語だったと思います。

ただ、全体に恋愛描写が希薄で、加えて上述したように、クライドがいまいちデリカシーに欠ける男で、恋愛的な言動や感情の表出、心情の動きは皆無という男ですので、恋愛面はどうしても取ってつけたような印象が残ります。もう少しそこらを細かく描写するとか、1つ2つヒロインとの関係を深めるようなイベントでもあれば、かなり印象が違ったのではないでしょうか。

ともあれ、雪国で繰り広げられる日常ドラマ。登場人物はみんなそれぞれに重いものを背負っているのですが、その重さをあまり感じさせず、暖かさと前向きなパワーを感じさせてくれます。この「苦難の中に感じる暖かみ」「重さと緩さの違和感ない融合」こそがこの作品の1番の美点だと思います。ツールはNScripter。ルート分岐は実にわかりやすいので迷うこともありません。プレイ時間は、共通ルートが40分、各ヒロインのルートが20分前後。合わせて2時間弱というところです。寒い雪国ならではの暖かさを、是非この物語で味わってみてください。
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