第824回/空が青い訳教えてあげる - Primitive Relationship(Trifling Mud) - 恋愛
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第824回/空が青い訳教えてあげる - Primitive Relationship(Trifling Mud)

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Primitive Relationship

Primitive Relationship準推薦
■制作者/Trifling Mud(ダウンロード
■ジャンル/文学少年少女の恋愛ノベル
■プレイ時間/30分

文学少年の中学生、水下潤のクラスには、変わり者の女子生徒がいた。名前は渓水裕海。休み時間にはほとんど本を読むばかりで誰とも話そうとせず、放課後には時折鉄棒にぶら下がっていることも。ちょっとしたきっかけから潤は裕海に興味を持ち声を翔。ずれたようなやり取りを繰り返す中、少しずつ2人は打ち解けていく。台詞のやり取りが粋な青春恋愛物語。

ここが○

  • とにかく台詞のやり取りが粋で洒落ている。
  • 整っていて高い文章力。
  • 読むと色々な豆知識が得られるかも。

ここが×

  • 用語解説は面白いが、流れを損なっている感も。
  • 中学生とは思えない潤と裕海の知識。
  • 恋愛面の描写は少し弱い。

■空が青い訳教えてあげる

Primitive Relationship2014年、6年前の作品です。さほど古い作品という訳ではありませんが、掌編、短編を中心に毎日多くの作品が生まれている今では、1年前の作品でもなかなか顧みられません。6年も前となると、なおのこと。そしてこの作品には絵がありませんから、一層目に止まりにくいのは仕方のないところです。が、絵のある作品では決して味わえない、この作品にしかない魅力を感じられる物語です。

この作品は「ハルカナココロ」の作者さんの手によるものです(こちらの方が先に公開されています)。「ハルカナココロ」は、哲学的なテーマの掌編を集めた作品集でしたが、この作品もそれに通じるようなテイストがあります。もっとも今作は立派な(?)恋愛ものですから、あちらとはかなり読んだ感覚は違うのですが、それでも登場人物の2人がやたらと難解な話をしているところなどは、通じるものを感じさせ、「ああ同じ作者さんだ」と思わせてくれました。

主人公は中学生の水下潤。同じクラスに渓水裕海という変わり者女生徒がいるのですが、ある日ふとしたことから彼女に声をかけてみたところ、裕海のことがちょっと気になり始めます。何せ主人公とヒロインが中学生ですから、そこまで劇的な事件が起こったりはしないのですが、等身大の中学生の心情を、粋な筆致で描いた会話が洒落ていて楽しめます。あまりにも粋すぎて、「中学生がこんなやり取りするか?」と思ったりもしましたが(笑)。

作中には「ハルカナココロ」と同様、青字の用語が出てきます。その時はその用語をクリックすると、用語解説が読めます。この用語解説も、潤と裕海自身がしているという設定で、2人の性格がよく現れていて読んでいて楽しめます。この解説を読むと、少し色々な豆知識が身につくかも知れません。ただ、用語解説はかなり多く、これくらいの短編ですから、ちょっと流れを損なっているようにも感じました。もちろん、読まなくても物語上支障は何らないのですが。

Primitive Relationship潤と裕海は、かなり難しい文学その他の話をしますので、人によってはついていけないかも知れません。私自身、中学生の頃は比較的本を読む方だったはずなのですが、彼らには足元にも及びません。文学や音楽、科学と幅広い知識を持っている2人の会話内容は到底中学生とは思えず(知識だけでなく、考え方も中学生離れし過ぎているような)、ちょっと感情移入し辛い人が出てきてもおかしくないでしょう。もう少し親しみやすいキャラクターにしても良かったような気はしました。

とは言え、特に後半の(元ネタを知っていればにやりとできるような)洒落た台詞の応酬は、潤と裕海の設定あってこそですから、そこは目を瞑りましょう。私自身は、それほど文学には詳しくはありませんが、クラシック音楽は好きですので、ラヴェルとガーシュウィンの話が出てきた時は、「おお!」と思いました(中学生にこんな話を出されたら、ちょっとびっくりするとは思いますが(笑))。

恋愛ものとしては、恋愛関連のイベントがある訳ではなく、潤の一人称で進む物語に、取り立てて目立った恋愛心理描写がある訳でもありません。その意味で、恋愛ものとしては少し物足りなさを感じなくもないのですが、逆にだからこそ些細なやり取りに秘められた、隠し味のような味わいの妙を楽しめるとも言えます。特に、「空がなぜ青いか」を語る箇所は、読んでいて「なるほど!」と膝を打つような思いでした。

作中、やたら蘊蓄を語る2人に若干辟易する人があるかも知れません。文章力は高いのですが、その意味でちょっと癖のある作品です。しかし、それらの豆知識のようなエピソードが、あとでちゃんと意味を持ってくる(全てがという訳ではないのですが)作りが、非常に上手いなと思いました。これはこれでこの作者さんの味だと思えば、楽しめるはずです。また物語として目立った起伏がある訳でもないのに、恋愛ものとしてとても爽やかな読後感を得られます。作者さんの高いストーリーテリング能力が感じられます。

ツールはNScripter。選択肢はなく、プレイ時間は30分程度。用語解説をどこまで読むかでプレイ時間が左右されそうですが、せっかくですから全部読んだ方が楽しめます。全画面ウィンドウで透過率が高いため、少し文字が読みにくいのが玉に瑕ですが(文章自体、少し固めですらすら読めるタイプではないですし)、短編ですからそこは我慢してください。蘊蓄連発の固めの文章からすると、ラストでは意外なほどのバカップルぶりを見せつけられて、頬が緩むこと間違いなしです(笑)。爽やかな恋愛ものがお好きであれば、きっと楽しんで読めると思います。
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