第825回/わくわくすること探しに行こう - キリンの国(スタジオ・おま~じゅ) - 伝奇
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第825回/わくわくすること探しに行こう - キリンの国(スタジオ・おま~じゅ)

伝奇
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キリンの国

キリンの国準推薦
■制作者/スタジオ・おま~じゅ(ダウンロード
■ジャンル/天狗の里で一夏の冒険ノベル
■プレイ時間/5時間

京都にある鞍馬特別行政区、通称「天狗の国」。日本であって日本でないその場所には、天狗たちが独特の文化の元に暮らしていた。ある日、圭介とキリンの元に天狗の国から一通の手紙が届く。差出人は、鞍馬に暮らすキリンの幼馴染、ヒマワリ姫。キリンは圭介を誘い、2人は夏休みを使って天狗の国に旅に出かける。キャラクターと生活感が魅力の伝奇物語。

ここが○

  • キャラクターが魅力的。
  • 山での暮らしの様子の生き生きとした描写。
  • 大量の表情豊かな立ち絵。

ここが×

  • 重要な謎が最後に来て出てきたりする。
  • そもそも大事ないくつかの謎が明らかになっていなかったり。
  • なので読み終わっても何だかすっきりしない。

■わくわくすること探しに行こう

キリンの国今回は有名作をご紹介です。私はとにかく有名作は後回しにする傾向にあり、この作品も存在は知っていましたし、今までお薦めをいただいたこともあったのですが、延び延びになってしまいました。「キリンの国」です。「みすずの国」と世界観は共通ですが、話自体は直接の繋がりはありません。が、いきなりこの作品から読み始めるより、「みすず」から読んだ方が間違いなく楽しめると思います。

というのも、結構独自の設定や用語が多くので、最初は面食らうんですよね。特にこの作品、物語が始まるとのっけから天狗側の重鎮(司たち)の会合の様子が描写されるのですが、固有名詞だらけで何が何やら分かりません。前作をプレイしていても、多分分からないのですが、それでもいくつかの設定や用語に親しんでおく方が、楽しみやすいと思います。今作の重要人物、ヒマワリも前作で登場しますし。

さて、今作の主人公は圭介とキリンという2人の少年。キリンの方は数年前に天狗の国を追われた身ですが、天狗の国にいた頃、ヒマワリと仲が良かったようで、ある日彼の元にヒマワリから手紙が届きました。キリンは友人の圭介に声をかけ、2人は夏休みを利用して、京都鞍馬の天狗の国へ旅することになります。この2人、何と中学生。ちょっと中学生らしくないところが、気にならなくもありません(私はずっと高校生くらいだと思ってました)。

この作品、登場人物が非常に多いです。そしてその登場人物の全てに立ち絵が用意されています。ちょっとだけしか出てこない脇役キャラとて例外ではありません。そしてそんなチョイ役であっても、立ち絵に全く手抜きがありません。前作もそうだったのですが、立ち絵の表情が実に豊かで非常に魅力的です。絵だけでなく、20人以上の登場人物全員、しっかりと個性付けがなされており、ここらは匠の技を感じさせてくれました。

キリンの国この作品の何よりの美点は、生き生きと描かれた生活感です。特に中盤、養蚕の里である綾野郷での生活の様子が、大変魅力的でした。空気感までも感じられるような夏の山間の村での生活に、様々な登場人物の思いをも交差させ(特に杏は素敵)、ジブリの映画を思わせるような感覚を味わわせてくれました。このような日常描写だけで楽しく読ませるというのは、かなりの力がないとできないことです。時折出てくる食事の絵が、これまた非常に美味しそうなんですよね(笑)。

そしてヒマワリとの再会シーン。「みすずの国」をプレイしていると、相変わらずの様子に懐かしい気持ちになれます。そして夏がだんだん終わりに近づいていく様子の描き方も、見事の一語に尽きます。綾野郷で知り合った面々との別れも、淡々としているだけにかえって胸に迫るものがありました。正直に言いますと、圭介がこれで帰ってきました、だけでも物語としては十分なのではないかと思ったほどです。

逆に、後半からラストにかけての展開は、ちょっと戸惑いました。というのも、圭介の過去など、凄く大事と思われる設定がいきなり出てきて、「え、前半にそんな描写あったっけ?」と首を捻ることが何度か。また展開としても、若干突拍子がない感は否めません(何せ重要な要素がほとんど説明されていないので)。戦闘シーン自体は迫力ありますし、ホオヅキが身を張って助けにくるシーンも、それ自体は感動的なのですが、ラスト近くは展開を支えるべき伏線や、説明が不足していて、読みながら「え? え?」と困惑しました。

もしかしたら、続編を前提に作られたのかも知れませんが……。ラスト近くをああいう展開にするのであれば、前半からそれなりに伏線が必要だったのではないかと思い、読み終えて少し釈然としない思いが残りました。何せ作中の問題は結局ラストに至っても何ら解決していないんですよね。うーむ、という感じです。ここらは読んだ人で感想が変わる可能性もありますけど。

それでも、夏の間のちょっとした冒険を描いた物語、あるいはキリンと圭介の友情物語として見るのであれば、大変レベルの高いシナリオだと思います。夏の田舎というのは、ノベルゲームでは非常によく取り上げられる定番の舞台ですが、ここまで、ノベルゲームという媒体で「夏の田舎」を見事に表現しきった作品は、なかなかないと思います。プレイしている間は、実際に鞍馬の里で暮らしているような感覚を味わえると言っても、決して大袈裟ではありません。それだけの描写、演出を持った作品です。

ツールはNScripterです。選択肢はなく、プレイ時間は5時間くらいでしょう(読むのが人より早い私は、4時間弱でした)。前作を読んでいると、ちょっとにやりとできるところもありますし、前作は1時間くらいで読めますので、できれば前作からお読みください。他に似た雰囲気を持った作品がない、冒険心を刺激してくれる現代和風伝奇物語です。この手の作品は読み手を選ぶことも多いですが、この作品は誰でも読みやすいと思います。ありきたりの日常にお疲れの方は、この作品で綺麗なもの、わくわくすることを体験してみてください。
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